屋久杉最後の入札

41年の想いを胸に入札に臨む

「入札のことが頭から離れずに、緊張して午前3時は起きた。」と話すのは㈱九州銘木穂原会長。創業して41年、屋久杉と共に歩んできた。本日、最後を迎える屋久杉土埋木入札。そこにかける想いは一塩だ。起床してからご両親がおさめられている仏壇に一拝、「いよいよ今日が最後です。お客様のために、九州銘木の未来のためにも精一杯やってきます。どうか天国で見守っていてください。」創業からひたむきに走り続けてきた穂原会長は、常に育ててくださったご両親への感謝を忘れなかったという。熱い思いを胸に、入札に臨む。

株式会社 九州銘木
代表取締役会長 穂原 剛

約3時間以上に及ぶ史上最後の屋久杉競争入札
出品中最上級品を含む約半分を落札 
屋久杉を愛するお客様へ最高の仏壇を届けたい

3時間03分38秒が創る職人の20年

午前9時20秒に始まった入札は、午後12時03分58秒に最後の原木の落札番号が呼ばれた時点で終了した。長時間ではあるが、この入札で獲得した原木数が九州銘木の20年先の未来を決める。その数70本。職人がお客様に魂を込めて造る屋久杉仏壇は、こうしたサバ
イバルにも似た競争入札の戦いから始まっているのである。

桜島が見える鹿児島市の東開町。九州森林管理局鹿児島銘木市場がある。三月四日、屋久杉入札最後の日。入札開始は午前9時であるにも関わらず、7時には多くの業者が集まっていた。穂原会長は朝方6時には会場に入り、入札にかけられるすべての屋久杉を見て回ったという。九州銘木からは、穂原会長・穂原社長・原田が入札に臨む。6ヶ月前から今日の日の為に準備してきた。市場が本社工場の目の前にある地の利を生かし、会長・社長は、ほぼ毎日。原田は、関東営業担当にありながら月の半分は鹿児島に戻り、吟味に徹した。なぜここまで心血注ぐのかは言うまでもないが、入札の失敗は、10年後20年後の商品の素材が無いことを意味する。まさに決死の覚悟である。それだけではない。昭和二十四年から約七十年にわたって続いてきた銘木屋久杉の入札が今回を持って終了するのである。九州銘木のすべてのスタッフが特別な思いで今日の日を迎えたのだ。中でも穂原会長は創業来四十一年間欠かさず参加してきた入札の終了を、「子どもとの別れに近い寂しさがある・・」

と、感慨深い。今回の入札には、143物件の土埋木が出品され、全国から138社の業者が参加しました。九州銘木の入り札番号は597番。仕切りよりこの番号が呼ばれれば落札したことになる。開会のセレモニーがとりおこなわれた後、いよいよ屋久杉最後の入札がスタート。一号物件は、全出品の中で最上級品。3名の仕切りが物件に駆け上がり、叫ぶ。「一号物件です。本日最上級品です。よろしくお願いします。他にございませんか。最上級品です。ございませんか。」次々と札が入る。そして札が出揃い、仕切りが「それでは開きます。確認します。」と叫び、5秒ほど間が開いたところで、「それでは、いきます。落札、三百十八万八千円。597。落札。僅差でした。」九州銘木は、一号物件・最上級物件の落札を皮切りに4連続で落とした。百三十社を超える業社との競争入札も最後の143号物件となり、気付けば3時間を超えていた。

そして、記念すべき最後の物件も、九州銘木が落札したのである。結果は、143物件中70物件を落札。最後の合図と共に、九州銘木スタッフは全員握手や抱擁をしあい、目には涙が見えた。準備に約半年を費やし、前夜のギリギリまで作戦を練った。まさに満身創痍で臨んだ最後の落札であった。最後の余韻に浸る間もなく、本社工場に戻り、落札した銘木の総立米を算出し、最長10年を超える乾燥及び木取の計画を立てた。会長をはじめとするスタッフ全員が、「お客様に最高の屋久杉仏壇を届けたい。屋久杉を愛するお客様へ届けたい。」言葉の端々に口にする。歴史的な一日を体験しながらも、全員の目は、お客様を・未来を向いているのである。

№2143
入札史上最後の土埋木


「屋久杉の可能性は無限大。
樹齢1000年が創りあげる審美は、伊達じゃない。」

「屋久杉にも、会長にも感謝しています。」最後の競争入札の前の少し空いた時間に口を開いたのは穂原社長。隣にいるのは昨年工場責任者についた中野。大事を前にピリピリとした緊張感の漂う中、穂原社長が、なぜ今その言葉を発したのか尋ねてみた。
【穂原】 最後の入札の前に、改めて会長の苦労や偉業について考えていました。四十一年間(入札を)やってきたんだよなぁって。今九州銘木があるのは、お客様はもちろんですが、やはり会長のおかげ。そして、屋久杉の。考えていたことを口にしました。
 入札前に感謝の気持ちがこみ上げたとのことで、その後も話しが続く。
【穂原】感謝の気持ちと「責任」を強く感じています。今回(入札で)全てを取るために準備をしてきました。仮に半分でも全てでも、20年、もしかすると15年分の材料にすぎません。さらに、少子高齢化や価値観の変化の中で、屋久杉仏壇も今後どうなるかわからない。そこへの責任です。それを考えると、永続的にお客様へ価値を提供するために、何をなすべきか、時間が少しでも開くと考え込んでしまうんです。他の社員にもよく話すけど、中でも中野には常に聞き役(笑)で聞いてもらってます。」
 創業者と屋久杉そのものへの感謝、未来への責任が心の中で交差している心境が伝わってきた。入札を前に20年後を危惧するところから何かが生まれてくるのかもしれない。中野にも聞いてみた。
【中野】 「社長とは常日頃から、九州銘木の未来の話をしています。最初は聞いてばかりでしたが、感化されて僕からもいろんな構想や商品などの話をします。実際、僕が入社する前から屋久杉仏壇だけでなく、色んな製品をつくっていますし。売上比率的には仏壇が圧倒的ですが。」
【穂原】 「心配事だけで話しをしていても、新しい発想は生まれてこないので、基本的に楽しむことを大切にしています。お客様にも良いものを提供出来ないでしょうしね。とにかく屋久杉の可能性を追求していきたいって感じです。この仕事をして知りましたが、樹齢が数千年ともなると、木の審美性ってかなりのものがあります。製造の現場で常にそう思います。」
【中野】 「だからこそ、その美しさを活用した商品づくりの可能性を追求していきたいって感じですね。」
 中野の合いの手や返答から見ても、穂原社長と常にコミュニケーションをとっていることがわかる。同じ危機感や希望・期待感を持っている。「可能性の追求」現在は、どの方向性で考えているのだろうか。
【穂原】 「今は、物が溢れ、無くて困るものがないくらいです。そんな中、屋久杉仏壇は希少性が高くまさにオンリーワンです。おかげ様で、多くのお客様にご好評いただいています。ですが、インターネットやスマーフォンの普及により、価値観の変化がみられる中、屋久杉仏壇がいつまでもゆるぎない存在でいられるとは限りません。こういったことを考えながら、新しい製品造りもしています。決して屋久杉仏壇の需要と供給という経済的側面から考えるものではなく、人間の本質的な部分から考え得なければならないとも捉えています。屋久杉仏壇がなぜ多くの人達に愛されるのか。なぜ、屋久杉が人の心を打つのか、です。人は、美しくて温もりのあるものを好むという事。そして、そうした環境や場所に身を置きたいという事。デジタル化していっている時代だからこそ、その意識は高まっていると思います。私達が造る屋久杉製品で、人びとが癒され、温かい優しい気持ちになっていただけると考えています。屋久杉仏壇のような一生ものだけでなく、日用品や趣味のアイテムなど、まだまだたくさんの心を打つ(屋久杉)製品を創ることが出来ると考えています。屋久杉の可能性を追求し続けることで、様々な価値(製品)が生まれると思います。 
穂原社長のビジョンにも近しい話を聴けたところで、具体的な技術や完成度・実現性などについて中野に聞いてみた。

【中野】 「屋久杉仏壇造りには、多くの技術が反映されています。全て審美性を高めるための技術です。製材・乾燥・木取・彫刻・研磨・塗装・組み立てなどすべてにおいてです。その技術を活かして多くの製品をつくることが出来ます。実際、テーブル・椅子などの家具や、万年筆・PCのキーボード・スマフォカバーなどのステーショナリーグッズ。また、ゴルフのパターや釣り竿など趣味のアイテムを製造販売しています。どれも、屋久杉の審美性が表現できるように仕上ています。
 中野の話から、すでに多くの製品が生まれていることがわかった。それでもなお、未来を危惧する穂原社長に、その真意を尋ねた。
穂原 「お客様への新たな価値提供という観点からは、まだまだです。まだモノ提供の段階です。これからの時代は、やはりコト(お客様にとっての価値)の提供が必要だと考えています。明確なものはまだ出ていません。ただ、中野も含め、スタッフ全員で日々ディスカッションしならがら、全ての製品に真心込めて造りつづければ、かならず見つかると信じています。私たちがお客様へ提供出来る【コト】について。
中野 「うち(九州銘木)の良いところの一つに、経営陣(会長・社長)・総務・営業・製造の現場・取引先様との緻密で活発なコミュニケーションがあると思います。それが何を生むのかと言うと、まさに新しい発想だと思います。全員で、その【コト】を見つけます。
 文字にして2169文字、時間にして約8分間のインタビューの中に、今後の九州銘木の進むべく方向性を見ることが出来た。これまでの歴史に感謝し、新たな価値を生み出していこうとする九州銘木の未来はきっと明るい。まだ、見つけることのできない、その【コト】が私達の目に映り耳に入る日は近いのではないだろうか。ただ、その時も、穂原社長やスタッフの目には、また新たな未来を見つめていることだろう。今後の九州銘木に期待は高まるばかりだ。
(写真/記事:外部広報担当 n_style)